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    『シャインポスト』Blu-ray BOX、スタッフ&キャスト寄せ書き本発売記念 及川啓(監督)×増尾将史(アニメーションプロデューサー)×南幸大(設定制作)インタビュー

    先日、Blu-ray BOX 2とスタッフ&キャスト寄せ書き本が発売され、放送後も話題の尽きないテレビアニメ『シャインポスト』。ここではあらためて、監督の及川啓、アニメーションプロデューサーの増尾将史、設定制作の南幸大に、どのような思いで作品を制作したのか話を聞いた。

     

    ■青春感と「儚さ」

    ――『シャインポスト』の監督に及川さんを、というのは増尾さんの発案だったのですか。 

    増尾 そうですね。「嘘」という題材を扱うにあたって、及川さんにお願いすることで、マイナスイメージをマイナスに捉えられないようにしたかったんです。アイドルたちの心情に深く切り込んでいきたい思いもあったのですが、馬鹿正直にそれをやっていくと、ただただ暗いイメージの作品になってしまうと考えていました。及川さんに手がけていただけたことで、シリアスパートとポップなパートがしっかり並び立つ作品にできたなと。ファンが作中のギャグで盛り上がってくれているのが嬉しかったです。

    及川 以前アイドルアニメを見て「素晴らしい作品だな」と思ったことがあったんですよ。さらに自分はアイドルだけを題材にしたアニメに携わったことがなかったのですが、自分がアイドルアニメを作るなら、また違った方向でチャレンジできるかもしれないとも思えました。「自分なりのギャグを取り入れたアイドルアニメを作る」。そこに惹かれて、この作品をお引き受けしました。

    増尾 自分はライブもしっかり描ける作品にできるだろうと思い、この作品を引き受けました。

    ――ライブシーンに力が入れられる作品という意味ですか。

    増尾 シーン単体だけではなくて、ライブがストーリーにおいて重要な意味があって、ちゃんと終着点になる作品にしたかったんです。ライブをやっている意味がない作品は嫌だなと思っていました。ただ大変なだけになってしまうので。

    ――華やかな賑やかしとしてライブが存在している場合もありますね。

    増尾 でも、「お話上、このライブは必要だったのかな」と疑問に思うことがあって。そうではなく、少女の成長にとって必要なものとして描いていきたかったんですね。

    ――では、華やかさというよりも、あくまでドラマが主体の作品として作ったのですね。

    及川 アイドルたちが苦悩しながら、それでも前に進んでいく。そのドラマを丁寧に描きたいなと思っていたんです。青春感みたいなものを上手く表現しつつ作っていこうと思っていましたね。

    増尾 この子たちが、一生で一番輝いている時間を切り取るのが、この全12話だと思っていて。全員がひとりの人間として、女の子として、しっかり悩みを抱えている。そして、その悩みにアプローチできるナオ(日生直輝)を通じて、「だからアイドルを続けているんだ」というところにちゃんと繋がるように、及川さんと考えて作りました。だからこそ、それぞれの人間性を深く考えていったし、悩みについても、キャラクターの個性にちゃんと紐づくようにしたつもりです。
    アイドルって、全員一本筋で別々の人生が存在しているけど、この瞬間だけはみんな一緒にアイドルとして輝いている。その「儚さ」がアイドルのいいところだなと僕は思ったので。だからそのときしかない青春感ですよね。そこをしっかりと押し出そうとしました。

    ■悲しいのを堪えて笑う

    ――今回の演出的な方針はどういったものだったのですか。

    及川 ドラマを描くこととも関係しているのですが、「表情」にこだわりましたね。たとえば悲しみを表現するときに、ただ記号的に悲しい表情を描くのではなく、そのシーンに応じた芝居にしたいと。「悲しいのを堪えて笑う」といった細かい表情にこだわりながら指示をしていました。各キャラクターがそのときどういう気持ちでいたかということを、表現で捉えたいと思って。結果、とても満足のいく作品になったと思います。

    ――それはコンテレベルからコントロールされているのですか。

    及川 ある程度はそうですね。それを作画の方がうまく表現してくれました。

    増尾 泣き芝居は、以前の作品のときの経験も活かしています。「こういう泣きにしましょう」と、芝居の統一を原画の段階でしていて。ほかにもライブの3Dとの切り替えなども経験が活きています。同じように『シャインポスト』での経験は、次の作品に引き継いでいきたいとも思っています。

    ――ライブシーンにおける演出面はいかがでしたか。

    及川 回り込むようなカメラワークを意識しました。

    ――ダイナミックな感じでしょうか。

    及川 いえ、大きく回り込むというよりは、FIX(※注1)のときでも立体を追うように……。じわーっと動かして、リッチ感を出そうとしていましたね。3Dライブのアニメーションは微妙に回り込むとか、そういうテクニックを取り入れながら、あまりFIXを作らないようにと心がけていました。

    ※注1:FIX…カメラを動かさず、被写体を固定し映すこと

    ■真面目な顔で”Spring”

    ――この作品の特徴として、春が「本気ではない」キャラクターとして描かれていることがあると思います。設定としては企画の段階で決まっていたのだと思うのですが、どう描こうとされたのでしょうか。

    及川 難しさはありましたね。春は天才で、教えてもらったことがあっという間にできてしまうから、みんな一生懸命努力しているなか、ひとりだけ手を抜いているように見えるかもしれなくて。そうなると、視聴者には受け入れられないだろうと。だから、嫌われないようにどう表現していくかを考えながら作っていきました。個人的にも春というキャラクターが好きだったので……。

    ――あ、監督は春推しなんですか。

    及川 どのキャラも好きですね。理王も好きだし杏夏もね。杏夏はリアリティのあるキャラですよね。本当は前に出たいけど、実際は一歩引いてしまっている……みたいなことは、視聴者の方も抱えていそうな悩みだろうと思いますし。紅葉も抜けている部分もあって、場を和ませてくれる良いキャラだし、雪音も春のために一生懸命だし。どのキャラクターもすごく好きです。

    ――話の腰を折ってしまい失礼しました。春が嫌われないよう、具体的に気をつけられたポイントはどこだったんでしょうか。

    増尾 春の抱えている悩みが、みんなに伝わるように丁寧に描いていこうと。そもそもどの子も悪い子じゃないんですよ。

    ――そうですね。

    増尾 思いやりのすごく強い子なので、だからこそトラウマから脱せない。後半、蓮も出てきたりして、根深いんですよね。春自身も親友がいなくなっていたり、親友と仲良くできない期間が長かったりもして。アイドルが好きなのに、みんなを傷つけたくない思いが先行して、間違った道に進んでいる葛藤を、しっかりと視聴者に伝わるようにしたつもりなんです。特に9話はすごく時間をかけました。

    及川 そんなふうにアイドルとしてステージに立っている子たちの裏側というか、舞台に上がってないときの生き方や取り組み方を、しっかり描いていこうと思っていたんです。

    ――その取り組み方を描いていくところと、及川さんがこれまでやられてきたギャグセンスの食い合わせはどうだったのですか。

    及川 よかったと思います。真面目なシーンにどれくらい崩すかが難しい作品だったのですが、その匙加減を一生懸命探りつつ、チャレンジもできたかなと。そのうえで、ちゃんとお話のなかにギャグを取り込めたと、個人的には思っています。でも『シャインポスト』のギャグで一番インパクトがあったのは、増尾くんが考えた、“Spring”って書かれたパーカーじゃないですかね。

    増尾 (笑)。

    ――商品にもなっているパーカーですね。

    及川 してやられたなと。蓮ちゃん真面目な顔をしているのに“Spring”付けてますからね。あれはいいですよね。蓮もやり方を失敗すると、本当にただの痛い子になっちゃうというか。春への思いが強すぎると、視聴者が引いてしまう部分もあるのかなと思ったんですよね。でも、あの“Spring”だけで、ちょっと……。

    ――敷居が下がる(笑)。

    及川 そうそう。微笑ましく見ることができるなと思いましたね。そういう意味でも、ギャグとしてマッチしていたと思います。

    ■ダンスの深度に合わせた芝居

    ――ライブシーンは大変だったと思うのですが、苦労された点をおうかがいできますか。

    増尾 ライブシーンは、当初予定していた数より、多くなったんですよ。

    及川 それが苦労の始まりでしたね。結果的に本当に2話にひとつぐらい出てくることになって(苦笑)。とにかく作画さんのカロリーが大変になってしまいました。

    ――ライブシーンが増えたのはなぜなのですか。

    増尾 当初ダンスシーンがなかった箇所も、ストーリー上やらないと成立しない状況が増えてしまったんです。ダンス中の観客の反応や様々な機微を表現して視聴者に見せないといけなかったので、ダンスはある程度見せないといけなかった。当初の予定だと、「一歩前ノセカイ」と「Yellow Rose」はなかったんです。

    ――え! なかったんですか?

    増尾 なかったです。それを及川さんと「頑張ってやろう」と話をして。「Yellow Rose」も、ダンスというよりは歌っているところがないと難しいよね、という話になって。それでお願いして作ったんです。これだけはちょっと特殊で、3D(の参考)も何も出してないんですよ。作画さんが単純にダンスを見ながら描いただけなんです。

    ――おお、そうなんですね。

    増尾 だから作画さんすごいなって。

    及川 1話で、春がナオに対してレッスンを見てもらいたいと、軽くダンスをやるじゃないですか。あれも作画さんが本当に頑張ってくれて。理王はダンスが下手という設定だったのですが、彼女の動きが遅れてしまうことを見越した春が、上手くバランスをとるんですよ。アニメーターさんがそれを表現していて、「できるもんなんだな」と本当に驚きました。

    ――それぞれのダンスに対する深度が違うことを表現したのですね。まだ3人が完璧なダンスを踊るほうが楽そうですが……。

    及川 そうだと思います(笑)。あれは本当に作画さんのお力です。

     ダンス周りでいうと、毎回モーションキャプチャーを撮りに行ったんですよね。で、ムービーを撮ってもらって、そのデータを3Dさんと共有していました。毎回、3Dさんに「こうしてほしい」と打ち合わせを組むところから始まるので、普段より工程も多くなりますし、監督イメージを伝えるのも大変で、苦労しましたね。「作画でライブを6本やります」みたいなことは、1クールのシリーズではなかなかないので大変でした。

    ――アニメーターの方にお願いする以前の段階で、すでに大変だったんですね。

     でも、面白かったですね。ほかにもリップシンク(※注2)を撮りに、声優さんが生で歌っているのを撮りに行ったりとか。貴重な体験をさせてもらいました。

    ――それにしてもライブが6つとなると、スタッフィングもかなり強固にしていかなければいけないと思うのですが、スタッフのライン作りはどう考えていたのですか。

    増尾 中島(順)さんにメインアニメーターをお願いしたり、福田(佳太)さんに総作監をお願いしたりと、以前からライブのアニメーションについて経験がある人を中心にしました。小畑(賢)さんと中島さんは、ふたりとも以前から作監や原画をやってもらっていて、そこを中心にライブ映像を作っていこうと。あとは1話、6話、9話でライブをやってくださった原画さんと、この3人を中心に行こうとは初めから思っていたんですよ。あとTINGSのライブはずっと及川さんにコンテをお願いしていたのですが、HY:RAINについては、コンテを式地(幸喜)さんにお願いすることにしたんです。やっぱり同じ人がやると癖が出てしまうと思うので、全然違うものとして、TINGSにとっての大きい壁という表現をしたくて、視聴者にもそれがわかるようにしました。式地さんもそこで手応えを感じてくださったようで、すごく嬉しかったですね。素晴らしいライブでした。

    ※注2:リップシンク…キャラクターの口の動きをセリフと合わせること

    ■芝居を見てもらいたい

    ――ここからは、先日発売されたスタッフ&キャスト寄せ書き本を読みながら、お話しさせていただければと思います。最初に監督のメッセージが掲載されていますが、これはどんな思いで……?

    及川 そこまで大層なことは書いていないのですが(笑)。本当にスタッフのお陰で高いクオリティの作品を作ることができたので、そういう感謝とお疲れ様でしたという気持ちを込めて……もう文章そのままですけども(笑)。スタジオKAI さんとやれてよかったなと。

    ――その隣には長田さんのメッセージがありますね。長田さんにはどういう理由でキャラクターデザイン、総作監をお願いしたのですか。

    増尾 長田さんがお上手なのは知っていましたし、やっぱりやってくださると、フィルムの安定度が違いますね。デザインも素晴らしいですし……。「密度感があって可愛いキャラクター」を今回目指していたこともあり、長田さんはバッチリだなと。

     細かい影や自然なシワにこだわりを持ってやってくださる方だったので、ディテール感もしっかりありますし、コンテの細かい監督の意図を汲み取って、芝居の流れを考えてくださる方だったんです。

    増尾 お芝居がやっぱりお上手なんですよ。今回はそこを頑張りたいと思っていて、しっかり応えていただきました。ライブも芝居の範疇だと思いますしね。

    ――実際に本をご覧になられて、気になる箇所はありますか。

    増尾 P04で宗圓(祐輔)さんがゆらゆらシスターズを描いていますけど、これは自分でデザインしたキャラクターだしっていうところと……あとは趣味でしょうね。好きだと思うので。

    ――趣味なんですね(笑)。本編ではあまりフィーチャーされていませんが……。

    増尾 このイラストではメガネを外していますけど、その状態でアニメには出てきてないんですよ。

    及川 本当だ!

    ――じゃあこのイラストは貴重ですね。

    増尾 超貴重です(笑)。

    ――では次に、Blu-ray BOX 2も発売になりましたので、何度も見て初めて気がつけるようなシーンや、見てもらいたいポイントを、あらためていただいてもよろしいでしょうか。

    増尾 じゃあ、僕から。放送だけでは気付けないポイントで言うと、蓮ちゃんの服がどんな文字で、どういう意味なのかみたいなのを、ちょっとこう今一度考えてもらえればと! 放送だと気づけないと思うんでね。

    一同 (笑)。

     自分はやっぱりライブシーンですよね。こだわりが詰まった見応えのある部分が多いので、何度でも見直して楽しんでいただきたいです。

    ――監督はいかがですか。

    及川 そうですね。以前の作品だと史実を元にした小ネタをたくさん挟んでいたりもしたので、一回では気づかないようなことってたくさんあったのですが、今回は逆に一回で全部目に入るように、シンプルな作りを意識しました。なので、そういった細かい気づきよりは、先ほどから話題にあがっている細かい芝居を、ぜひ繰り返し見てもらえると嬉しいなと思います。